名古屋地方裁判所 昭和43年(行ウ)2号 判決 1972年3月31日
名古屋市南区宝生町三丁目一六番地
原告
荒川道重
右訴訟代理人弁護士
福岡宗也
同
田畑宏
名古屋市熱田区花表町一の地先
被告
熱田税務署長
清水毅
右指定代理人
中原勇
同
山下武
同
内山正信
同
蒲谷暲
法務大臣指定代理人
山田巌
同
大榎春雄
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の申立
(請求の趣旨)
一、被告が昭和四一年八月九日付でなした原告の昭和三九年分所得税について総所得金額を金五二五万一、九三二円(但し、昭和四四年八月七日付で再更正された後のもの)とする更正処分のうち金一一〇万八、五〇〇円を越える部分および過少申告加算税金七万六、七〇〇円(但し、昭和四四年八月七日付で変更された後のもの)の賦課決定はいずれも取消す。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
(請求の趣旨に対する答弁)
主文同旨。
(原告の請求原因および処分の違法性の指摘)
一 原告は被告に対し、昭和四〇年三月一一日、昭和三九年分(以下「係争年分」という所得税について、別表「確定申告額」欄記載のとおりの確定申告をしたところ、被告は、同表「被告処分額」欄記載のとおりの更正処分および過少申告加算税の賦課決定をなし、同四一年八月九日付でその旨原告に通知した。
二、原告は、右処分につき昭和四一年九月一日被告に対し異議申立をしたが、同年一二月六日棄却され、更に同月二二日名古屋国税局長に対し審査請求をしたが、同四二年一二月二二日棄却された。
三、被告は、その後別表「被告再処分額」欄記載のとおりの再更正処分および過少申告加算税額の変更決定をなし、昭和四四年八月七日付でその旨原告に通知した。
四、しかしながら、原告には係争年において譲渡所得は存しない。
(請求原因に対する答弁)
請求原因一ないし三の事実は全部認める。
(被告の主張)
一、原告の係争年における給与所得金額、不動産所得金額、所得控除金額、源泉徴収税額はいずれも別表「確定申告額」欄記載のとおりである。
二、譲渡所得金額の認定について
(一) 原告は、昭和三九年一月一七日(但し、契約日は同三八年一二月二〇日)、原告所有の別紙目録一記載の土地(以下「第一土地」という)を訴外大垣機工株式会社に、同じく原告所有の同目録二記載の土地(以下「第二土地」という)を訴外宝生木材株式会社にそれぞれ売却(以下「本件譲渡」という)し、その譲渡価額は合計一、〇五九万六、八六六円であつた。
(二) 第一、第二土地(以下「譲渡資産」ともいう)の取得価額は合計二一六万円である。
(三) 従つて、本件譲渡による譲渡所得は次のとおりとなり。
(イ) 総収入金額 一、〇五九万六、八六六円
(ロ) 取得価額 二一六万〇、〇〇〇円
(ハ) 譲渡益((イ)-(ロ)) 八四三万六、八六六円
(ニ) 特別控除金額 一五万〇、〇〇〇円
(ホ) 譲渡所得金額〔((ハ)-(ニ))×1/2〕 四一四万三、四三三円
(被告の主張に対する原告の答弁)
一、被告の主張一、二(一)、二(二)の事実は全部認める。
二、同二(三)の計算関係は認める。
(原告の反論)
一、原告は譲渡資産を従来より事業の用に供していた。
二、原告は、昭和三八年八月二日、訴外島田三郎から別紙目録三記載の土地(以下「第三土地」という)を一、八〇〇万円で取得し、同三九年五月一日(但し、契約日は同年四月三〇日)から同地上に存した同目録四記載の家屋(以下「本件家屋」という)を訴外日本トレーデイング株式会社(以下「日本トレーデイング」という)に賃貸(以下「本件賃貸借」という)し、右土地につき、右家屋(倉庫)の敷地部分(七五坪)のみならず、残余の部分についてもトラツクの通行や物置場として利用することを許可し、もつて、第三土地(以下「買換資産」ともいう)を全部事業の用に供した。仮に第三土地の使用が前記七五坪に限定されたとしても、一筋の土地の一部について使用関係が成立すれば、結局、右土地の全部についてこれを事業の用に供したものとみるべきである。
三、従つて本件譲渡については、昭和四四年法律第一五号、第一八号による改正前の租税特別措置法(以下「措置法」という)第三八条の六(事業用資産の買換えの場合の課税の特例)の規定の適用があり、譲渡所得は無かつたものである。
(原告の反論に対する被告の答弁および反駁)
一、原告の反論一の事実は認める。
二、同二については、原告が島田三郎から第三土地(買換資産)を取得し、同地上の本件家屋を日本トレーデイングに賃貸したことは認める。
しかしながら、原告が右土地を取得したのは昭和三八年七月二五日であり、本件賃貸借がなされたのは同三九年一〇月三一日である。従つて、本件買換資産をその取得の日から一年以内に事業の用に供したとはいえない。
また、本件賃貸借の対象は、本件家屋(登記簿上五九・四六坪、実測五〇・五坪)と同家屋の敷地七五坪(本件買換資産の一部)である。従つて、仮に本件につき措置法第三八条の六の適用があるとしても、その適用を受けるのは実際に事業の用に供された右敷地部分七五坪に限られる。
第二証拠
(原告)
一、甲第一ないし第七号証、第八号証の一、二、第九号証を提出。
二、証人矢野智弘、同島田英彦、同小林博之の各証言、原告本人尋問の結果を援用。
三、乙第一号証、第二号証の一、第三ないし第五号証、第七ないし第九号証の各成立を認める。乙第二号証の二、第六号証の各成立は不知。
(被告)
一、乙第一号証、第二号証の一、二、第三ないし第九号証を提出。
二、証人服部正司、同浜島正雄、同山下武の各証言を援用。
三、甲第二号証、第八号証の一、二、第九号証の各成立を認める。甲第一号証、第三ないし第七号証の各成立は不知。
理由
一 請求原因および被告の主張について
請求原因一ないし三、被告の主張一、二(一)、二(二)の各事実はいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実によれば、本件譲渡による譲渡所得は被告の主張二(三)のとおり四一四万三、四三三円、原告の係争年における総所得税額は五二五万一、九三三円、過少申告加算税は七万六、七〇〇円となる。
二、原告の反論について
(一) 原告が島田三郎から第三土地を取得し同地上の本件家屋を日本トレーデイングに賃貸したことは当事者間に争いがないところ、右賃貸借の成立時期につき、原告は昭和三九年四月三〇日と主張し、被告は同年一〇月三一日と主張するので、先ずこの点について判断する。
(1) 成立に争いのない甲第二号証(家屋賃借契約証書)によると、原告と日本トレーデイングとの間に、昭和三九年一〇月三一日付で作成された本件賃借に関する契約証書が存し、右契約証書には、同日より日本トレーデイングが本件家屋を賃借した旨の記載があることが認められるところ、さらに、成立に争いのない乙第二号証の一、第七号証、証人浜島正雄の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第二号証の二、証人山下武の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第六号証、証人服部正司、同山下武の各証言、証人浜島正雄、同小林博之の各証言の一部、原告本人尋問の結果の一部を総合すると、(イ)日本トレーデイングは、第三土地に根抵当権設定登記および代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権の仮登記を有していたところ、原告が右土地上に存する本件家屋を他に賃貸する意向であることを知り、原告において右家屋を他に貸付けることにより生ずる将来予想される権利関係の輻輳および実質的な担保価値の減少を防ぐため、自己を得意先とする訴外福井ビニール工業株式会社(以下「福井ビニール」という)の依頼を受け、福井ビニールに転貸する目的で原告と本件賃貸契約を締結したこと、従つて、日本トレーデイングは、右家屋を自ら使用する営業上の必要は何ら存しなかつたこと、(ロ)日本トレーデイングと福井ビニールとの間で本件家屋の賃貸借(転貸借)契約が締結されたのは昭和三九年一〇月三一日であり、同日前には日本トレーデイングも福井ビニールも右家屋を使用していないこと、(ハ)福井ビニールは、昭和三九年一〇月三一日、右賃貸借(転貸借)契約に基づき同年一一月分の賃料六万五、〇〇〇円と敷金二六万円の計三二万五、〇〇〇円を日本トレーデイングに支払い、日本トレーデイングは、これを預り金勘定に計上し、翌月二日に原告に対し右同額を賃料および敷金として支払つていること、(ニ)日本トレーデイングは右一一月二日前には原告に対し本件家屋の賃料を支払つていないことが各認められるから、これによれば、本件賃貸借は、前記契約証書(甲第二号証)記載のとおり昭和三九年一〇月三一日に成立したものと認められる。成立に争いのない乙第三号証、証人浜島正雄、同小林博之の各証言および原告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分はいずれも採用しない。
(2) この点に関し、原告は、証人矢野智弘、同小林博之の各証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一号証(念書)の作成日付である昭和三九年四月三〇日をもつて本件賃貸借契約が成立した旨主張するが、右念書は、その形式と文言、前記認定の各事実および証人小林博之の証言の一部に照らしてみると、福井ビニールが本件家屋を使用する時点で賃貸借契約(本契約)を締結することを前提とした賃貸借の予約ないしは予約の申込にすぎないものと認められ、右認定に反する証人小林博之の証言および原告本人尋問の結果は採用しない。また原告は、昭和三九年五月分から九月分までの賃料計三〇万円は、原告が代表取締役をしている訴外宝生木材工業株式会社(以下「宝生木材」という)が日本トレーデイングに対し負債があつたので、三者間の契約で、原告が宝生木材の債務を日本トレーデイングに立替払し。日本トレーデイングは原告に右賃料三〇万円を支払うが現実には受渡を省略して決済した旨主張するが、右主張に沿う証人矢野智弘の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第三ないし第五号証、成立に争いのない甲第八号証の一、二、証人小林博之の証言および原告本人尋問の結果は、乙第二号証の一、二および証人服部正司、同浜島正雄の各証言に照らして採用できず、かえつて、右各証拠に成立に争いのない乙第八号証および前記認定の事実を総合すれば、本件譲渡につき措置法第三八条の六の規定の適用を受けるため、原告と日本トレーデイングとの間で、本件更正処分がなされた後において、本件賃貸借契約の成立時期を前記の日本トレーデイングが原告に念書を差入れた昭和三九年四月三〇日まで遡らしめてその間の賃料を支払うことを合意したものと認められるから、これをもつて、昭和三九年四月三〇日に本件賃貸借が成立したものと認めることはではない。そして、そのほかに前記(1)の認定を覆すに足る証拠はない。
(二) したがつて、仮に、原告が第三土地(買換資産)を取得したのが原告主張の昭和三八年八月二日であるとしても、原告が本件家屋を日本トレーデイングに賃貸したのは同三九年一〇月三一日であるから、原告は右買換資産をその取得の日から一年以内に事業の用に供したものということはできない。そうであるから、その余の点につき判断するまでもなく、本件譲渡には措置法第三八条の六の規定は適用されない。
三 以上の次第であるから、その余の点につき判断するまでもなく、被告の本件更正処分および過少申告加算税の賦課決定(但し昭和四四年八月七日付で再更正および変更された後のもの)は適法であり、その取消を求める本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 越川純吉 裁判官 丸尾武良 裁判官 三宅俊一郎)
<省略>
目録
一、名古屋市熱田区森後町二丁目五番の二
宅地 一一〇・〇四平方メートル(三三・二九坪)
右に対する仮換地
熱田五工区一六ブロツク六番
一〇二・八四平方メートル(三一・一一坪)
二、名古屋市南区宝生町三丁目四八番
宅地 一九八・三四平方メートル(六〇坪)
三、名古屋市南区寺部通三丁目七番
宅地 八二四・八五平方メートル(二四九・五二坪)
四、同所所在 家屋番号七番の二
木造瓦葺平家建居宅兼工場(五九・四六坪)
以上